Get to know Crime Novel Under Rain

ミステリについて書き散らすブログ

ミステリ(国内)

フィクションとノンフィクションの二刀流|月村了衛『香港警察東京分室』(2023年)

ミステリ好きというのは基本的にフィクションとしての犯罪を楽しむ人が多いようで、いわゆる犯罪実話のようなものは人気がないらしい。例外的に「切り裂きジャック」ネタについては小説・映画を問わず擦り切れそうなレベルで「こすられている」が、それ以外…

特殊設定はシンプルかつパワフルに|須藤古都離『ゴリラ裁判の日』(2023年)

音楽のストリーミング再生が普及した昨今では「ジャケ買い」という言葉はもはや死語なのかもしれない。音楽とは基本的にCDで聴くものであった世代(筆者もその一人である)にとっては、アルバムのジャケットというのは、そのアーティストの曲を聴くかどうか…

ミステリの正しいおちょくり方|倉知淳『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』(2023年)

本格ミステリというのは色々と「お約束」のあるジャンルである。ミステリをそれなりに読み進めている人であれば黄金時代を代表する作家ロナルド・A・ノックスが掲げた「ノックスの十戒」なるものが存在することをご存知だろう。その十戒の内容は以下の通り。…

ビコーズ・イッツ・ゼアー|岩井圭也『完全なる白銀』(2023年)

エベレスト登頂に3度チャレンジしたイギリスの登山家ジョージ・マロリーが、なぜエベレスト登頂を目指すのかと聞かれ「そこにエベレストがあるから(Because it's there.)」という名言を残したことは有名であるが、確かにワタクシのような凡人にとってエベ…

他人事どころじゃない|浅倉秋成『俺ではない炎上』(2022年)

昨今はニュースで炎上のニュースを聞くことが多くなった。一連のバイトテロ動画に始まり、最近の回転寿司のペロリスタに至ってはもはや過剰反応の連鎖が更なる模倣犯を生み出しているようにすら見える。まぁほとんどSNSを使っていない筆者にはあまり縁のない…

「気持」と「気もち」のはざまで|連城三紀彦『黒真珠』(2022年)

当ブログは「おもしろい小説を選びだしてはオーバーに騒ぐ」(©︎瀬戸川猛資)というコンセプトの元に原則としてフラットな記述を心がけているが、1人だけ例外と言うべき作家がいる。今回取り上げるのはその例外、連城三紀彦の『黒真珠』である。 bookmeter.c…

「映え」ミス界の超新星|桃野雑派『星くずの殺人』(2023年)

子供の頃から何となく宇宙に憧れていた。宇宙の果てはどうなっているのか?どこかに人類のような知的生命体はいるのか?もしいるとしたら、どんな生活を送っているのか?楽しい日もあれば、部活や宿題でうんざりする日もあるのだろうか?そんなとりとめもな…

誰かにとっての「あの頃」を描く作家|日影丈吉『女の家』(1961年)

記念すべき弊ブログ1発目のレビューは、最近復刊されたばかりの日影丈吉の逸品から始めることにした。 日影丈吉は言わずと知れた短編ミステリの名手だけど、子供の頃はシムノンやルルーの翻訳者という印象が強く、大人になるまで彼のミステリを読んだことが…