Get to know Crime Novel Under Rain

ミステリについて書き散らすブログ

ミステリ

フィクションとノンフィクションの二刀流|月村了衛『香港警察東京分室』(2023年)

ミステリ好きというのは基本的にフィクションとしての犯罪を楽しむ人が多いようで、いわゆる犯罪実話のようなものは人気がないらしい。例外的に「切り裂きジャック」ネタについては小説・映画を問わず擦り切れそうなレベルで「こすられている」が、それ以外…

だからスワンソンを読んだ|ピーター・スワンソン『だからダスティンは死んだ』(2019年)

昔の創元推理文庫にはジャンルを示すマークがあった。本格ミステリは通称「おじさんマーク」、ハードボイルドや警察小説は拳銃マーク、そしてサスペンス・スリラーはなぜか猫マークで・・・というような話は、おじさんミステリファンが集まるとよく出るネタ…

特殊設定はシンプルかつパワフルに|須藤古都離『ゴリラ裁判の日』(2023年)

音楽のストリーミング再生が普及した昨今では「ジャケ買い」という言葉はもはや死語なのかもしれない。音楽とは基本的にCDで聴くものであった世代(筆者もその一人である)にとっては、アルバムのジャケットというのは、そのアーティストの曲を聴くかどうか…

ミステリの正しいおちょくり方|倉知淳『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』(2023年)

本格ミステリというのは色々と「お約束」のあるジャンルである。ミステリをそれなりに読み進めている人であれば黄金時代を代表する作家ロナルド・A・ノックスが掲げた「ノックスの十戒」なるものが存在することをご存知だろう。その十戒の内容は以下の通り。…

ダイヤモンドと〈木曜殺人クラブ〉は永遠に|リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』(2022年)

気付けばもう4月も月末となってしまった。2023年も3分の1が過ぎたと思うと時間の経つのは早いものであるが、単にそう感じるほどに歳をとってしまったというだけなのかもしれない。「0歳〜20歳までと20歳〜80歳までに体感する時間は等しい」というジャネーの…

ビコーズ・イッツ・ゼアー|岩井圭也『完全なる白銀』(2023年)

エベレスト登頂に3度チャレンジしたイギリスの登山家ジョージ・マロリーが、なぜエベレスト登頂を目指すのかと聞かれ「そこにエベレストがあるから(Because it's there.)」という名言を残したことは有名であるが、確かにワタクシのような凡人にとってエベ…

エモいミステリ|グレッチェン・マクニール『孤島の十人』(2012年)

「ヤングアダルト小説」と呼ばれるジャンルがある。よく略して「YA」と書かれたりするが、「ヤングアダルト」とは一言で言えば「子供と大人の間の世代」を指し、小説のジャンルとしては大体12から18歳くらいを対象としているとされる。昨年の「このミス2023…

水で割るか、ソーダで割るか|ヒラリー・ウォー『事件当夜は雨』(1961年)

「職人的作家」と聞いて誰を想像するだろうか。ミステリ界で言えば400冊近い作品を残した笹沢左保は間違いなく「職人」であっただろうし、デビューから50年以上の間ハイペースで休むことなく書き続けた西村京太郎も「職人」の鑑のような作家である。海外だと…

他人事どころじゃない|浅倉秋成『俺ではない炎上』(2022年)

昨今はニュースで炎上のニュースを聞くことが多くなった。一連のバイトテロ動画に始まり、最近の回転寿司のペロリスタに至ってはもはや過剰反応の連鎖が更なる模倣犯を生み出しているようにすら見える。まぁほとんどSNSを使っていない筆者にはあまり縁のない…

余白の残し方|ミステリマガジン2023年5月号

「キングダム」という漫画がある。と言っても読んだことはないのだが、とてもよく売れているそうな。その「キングダム」の作者が先日テレビ番組にて創作の裏側について語っていて、ある登場人物について「三国志では2行程度しか記載のない人物であるが、かえ…

「気持」と「気もち」のはざまで|連城三紀彦『黒真珠』(2022年)

当ブログは「おもしろい小説を選びだしてはオーバーに騒ぐ」(©︎瀬戸川猛資)というコンセプトの元に原則としてフラットな記述を心がけているが、1人だけ例外と言うべき作家がいる。今回取り上げるのはその例外、連城三紀彦の『黒真珠』である。 bookmeter.c…

お客さんを選ばせてもらっています|ミシェル・エルベール&ウジェーヌ・ヴィル『禁じられた館』(1932年)

※途中で本作のトリックに触れている箇所があります 筆者がミステリ沼に沈められたきっかけはポプラ社から出ていたアルセーヌ・ルパンシリーズの1冊『ピラミッドの秘密』という本である。エジプトのピラミッドを舞台に怪盗ルパンが大暴れ、悪い大僧官に何度も…

「共感」の時代のノワール作家|S. A. コスビー『頬に哀しみを刻め』(2021年)

久しぶりのエントリとなってしまった。筆無精にとってはデジタルも紙も変わらないということか。改めて反省しつつ、最近読んだ本の感想を適宜アップしていこうと思う。 最近よくチェックしているのがハーパーBOOKSである。早川や創元、文春といった大手老舗…

誰かにとっての「あの頃」を描く作家|日影丈吉『女の家』(1961年)

記念すべき弊ブログ1発目のレビューは、最近復刊されたばかりの日影丈吉の逸品から始めることにした。 日影丈吉は言わずと知れた短編ミステリの名手だけど、子供の頃はシムノンやルルーの翻訳者という印象が強く、大人になるまで彼のミステリを読んだことが…